NHKドラマ10「舟を編む」第2話では、主人公・岸辺みどりが辞書編集という仕事を通して、自身の「好き」という感情や「恋愛」の定義に直面し、言葉に向き合う姿が描かれました。
失恋という個人的体験を抱えながら、新たに辞書編集部としての初仕事に取り組むみどりが、自らの感情を「語釈」として見つめる過程には、多くの示唆が込められています。
本記事では、第2話のあらすじをシーンごとに整理したうえで、辞書に関する基礎知識や、「好き」「あきらめる」「恋愛」といった言葉に込められた深い意味についても解説していきます。
- NHKドラマ『舟を編む』第2話のあらすじとシーン解説
- 「好き」「あきらめる」「恋愛」の語釈が辞書でどう定義されるか
- 辞書づくりを通して見える言葉の力と多様性へのまなざし
第2話のあらすじをシーンごとに振り返り
第2話は、辞書編集部での実務が本格化し始めた中で、主人公・岸辺みどりが「好き」「あきらめる」「恋愛」といった言葉に深く向き合っていく過程が描かれます。
恋人に突然去られるという私生活の動揺を抱えながらも、辞書という「言葉を定義する現場」に身を置いたことで、みどりは次第に「言葉」と「自分自身」を重ね合わせていきます。
以下では、物語をシーンごとに整理し、各場面で描かれるテーマや心理の変化を丁寧に追っていきます。
「右」という言葉に突き動かされ、再び出社する
海辺で涙を流しながら、みどりは「右」という言葉に対する自分なりの語釈を思いつきます。
自宅に帰宅後、会社を休もうと思っていたみどりですが、その語釈をどうしても伝えたいという衝動から会社へ向かいます。
しかし、出社から2時間後には、会社に来たことを後悔することになるのです。
初仕事「辞書比較」に苦戦するみどり
玄武書房では、ライバル出版社の「銀河国語辞典 第5版」が刊行されたことを受け、既存の辞書との比較・検証作業がスタートします。
みどりの仕事は、3冊の辞書を並べて用語や語釈の違いを確認し、追加・削除項目を洗い出すという極めて地道な作業です。
そのあまりの緻密さに圧倒され、2ページ進めるだけで2時間もかかってしまい、辞書作りの重みと厳しさを痛感します。
製紙会社の宮本と「ぬめり感」の出会い
用紙を納入する製紙会社の宮本が訪れ、「大渡海」専用紙のサンプルを提出します。
しかし馬締は一目で「これは違う」とダメ出し。その理由は、辞書のページをめくったときに感じられる独特の指への吸い付き――“ぬめり感”がないというものでした。
この「ぬめり感」こそが、辞書を日常的に引く体験を快適にする重要な要素であり、失われてしまうと、辞書が“ただの分厚い本”に堕ちてしまう危険があるのです。
好きとは何か?──宮本と「星の王子さま」の話
サンプル紙を持って出て行く宮本を追いかけたみどりは、「どうして紙にそこまで熱意を注げるのか?」と問いかけます。
宮本は、馬締のような情熱を持っているわけではないとしつつ、「君がそれを好きなのは、それのために時間を使ったからだよ」という『星の王子さま』の一節を引用します。
「好きだから時間を使うのではなく、時間をかけた結果“好きになる”のかもしれない」という逆説的な言葉が、みどりの心に深く響きます。
失恋と「あきらめて欲しい」の真意
元恋人・昇平を忘れられず、連絡を取り続けるみどりに、馬締は静かに語ります。
「あきらめて、あきらめて、あきらめてほしい」という馬締の言葉に、みどりは当初困惑しますが、やがてその意味が浮かび上がってきます。
それは、ただ忘れるのではなく、物事を「明らかにして、区切りをつける」という“あきらめる”本来の語義への気づきへの伏線です。
「恋愛」の語釈にある“異性”という言葉への疑問
みどりは辞書に載っている「恋愛」の語釈に違和感を覚えます。
「異性間の恋愛」と明記されている語釈に、「同性の恋愛は含まれないのか?」という問いが芽生えるのです。
この疑問は馬締を通じて編集部全体に共有され、みどりの心の声が、語釈という「言葉のかたち」に対する根源的な問いかけとして可視化されていきます。
編集部会議──語釈の定義に向き合う
辞書編集会議が開かれ、みどりの提案が話し合われます。
荒木や松本は、「辞書は“典型”を記すもの」と説明しながらも、「典型」がときにマイノリティを切り捨てるものになってしまうという事実を共有します。
馬締は「恋愛に“異性”という語が必要か」という根本的な問いを投げかけ、みどりの意見を中心に議論が展開されます。
灯台守として──言葉の光を守るという役割
議論の末、松本はみどりに「恋愛」の語釈を一度自分で考えてみるよう促します。
「言葉の灯台守になってください」という松本の言葉は、岸辺の中に灯る小さな光が、時代の先端を示す希望であることを象徴しています。
みどりはその使命を受け止め、「今の時代にふさわしい言葉の定義」に向けて模索を始めるのです。
昇平との別れ──「愛」ではなかったと認める勇気
中村(昇平)との再会を果たしたみどりは、自分たちの関係は「愛」ではなかったと語ります。
互いに依存し、利用しあっていた過去を見つめ、本当に「あきらめ=明らかにする」ことを実行するのです。
ようやく自分の感情に整理をつけたみどりは、下宿屋の馬締の家に引っ越して、辞書という「舟」を編む旅を再スタートさせます。
なんと、馬締の妻で大家の香具矢は、岸辺の歓迎会で使った小料理屋の板前さんでした。
辞書の基礎知識をおさらい
第2話では辞書編集部の業務や紙の話など、辞書作りの奥深さが随所に描かれていました。
ここでは、視聴者の理解を深めるために「大型辞書と中型辞書の違い」「ぬめり感とは何か」「語釈における典型的例とは何か」といった、辞書にまつわる基礎知識を整理してみましょう。
この基礎を押さえることで、物語の中で語られる言葉選びの重みがより深く理解できるようになります。
大型辞書・中型辞書の違いとは?
大型辞書とは、学術的・研究的用途に用いられる、最大級の国語辞典です。
語釈や用例が豊富で、語の由来や歴史的背景にも詳しく、言葉の百科事典的役割を持ちます。
代表的な例としては、小学館『日本国語大辞典(第二版)』があります。これは全13巻構成、収録語数50万語以上という圧倒的なボリュームを誇ります。
一方、中型辞書は、日常的に使用される語彙を中心に、実用性と情報量のバランスが取られた辞典です。教育現場から家庭、ビジネスまで幅広く使われます。
有名な中型辞書には、以下のようなものがあります。
- 岩波書店『広辞苑』
- 小学館『大辞泉』
- 三省堂『大辞林』
これらはいずれも20万〜25万語程度の語を収録し、一般向けの辞書としては最高峰の情報量と信頼性を兼ね備えたものです。
そして、ドラマに登場する「大渡海」もこの分類においては中型辞書です。
つまり「大渡海」は、一般読者に寄り添いながらも、最大限に語釈の深度と包摂性を高めることを目指した中型辞書という、現実的かつ理想的なプロジェクトとして描かれているのです。
辞書の紙に求められる「ぬめり感」とは
第2話で話題となった「ぬめり感」は、辞書をめくるときの指先への吸い付き感を意味します。
辞書は数千ページにも及ぶため、読者が頻繁にページをめくります。そのときにページが複数枚一緒にめくれてしまったり、めくりにくかったりすると、使いづらさがストレスとなり、辞書そのものが“読まれない本”になってしまう危険性があるのです。
製紙会社・宮本が1年かけて試作した専用紙も、馬締の一言「ぬめり感が足りない」で却下される場面は、辞書に必要とされる繊細な使い心地へのこだわりを象徴するシーンでした。
語釈に使われる「典型的例」とはどういうもの?
第2話の中で、みどりが直面する最大の問いのひとつが「恋愛」の語釈でした。
失恋の傷を抱えながら辞書編集部の初仕事──他社の新刊辞書の語釈精査に取り組む中で、ふと「恋愛」の項目に目を留めたみどりは、そこに記された「異性同士の感情」という定義に違和感を覚えます。
気になって他の辞書も確認してみると、どれも一様に「男女」や「異性間」といった表現で語られており、同性間の恋愛がどこにも反映されていない現実に、みどりは衝撃を受けます。
みどりはこの疑問を、正面から馬締にぶつけます。「なぜ、恋愛は男女に限られて語られているのか?」「今の時代、同性同士の恋もあるのに、それは“恋愛”じゃないのか?」
馬締は、その問いを決して感情論として流すことなく、落ち着いてこう答えます。
辞書には「典型例」というものがあります。
みなさん、“うさぎ”の絵を描いてみてください。
きっと、ほとんどの人のうさぎには長い耳が描かれているでしょう。
でも、耳の短いうさぎも実際にはいますよね?
辞書は、言葉を引いたときに誰もが同じようなイメージを思い浮かべられるように、「典型」を語釈に用いるのです。
この説明は一見すると合理的ですが、みどりはそこに大きなジレンマを感じます。
「辞書はうさぎを傷つけない。でも、人間は傷つく。自分の恋愛がそこに書かれていないと感じたら、その人は存在を否定されたように思うのではないか?」
つまり、「典型例」に基づいて語釈を作るというルールが、逆に現実の多様な生のあり方を排除してしまうことがある──という矛盾が、みどりの違和感の根底にあるのです。
このやりとりは、辞書という存在が「中立的であるべき言葉の器」である一方で、編纂者の“選択”というフィルターを免れないという本質的な問題を炙り出します。
「語釈は誰もがイメージしやすいように」「でも、それが誰かを傷つけているとしたら?」──この二律背反に、辞書が時代にどう向き合うべきかという根本的な問いが浮かび上がります。
この典型という枠組みが、社会においては少数派である多様な存在を語釈から排除してしまうリスクも孕んでいます。
辞書が担う役割の重さ、言葉を選ぶことの責任の大きさが、この「典型的例」というルールから読み取れるのです。
「好き」という感情を言葉で定義する難しさ
第2話では、「好き」という感情をどう言葉にするか、あるいは「好き」がどこから生まれるのか、という深いテーマが提示されました。
岸辺みどりは、辞書という仕事に対してまだ情熱を持てずにいました。
「自分は、この仕事を本当に好きになれるんだろうか?」と自問する彼女の疑問に、紙のプロフェッショナルである宮本が語った言葉が大きなヒントになります。
「星の王子さま」に見る“好き”の逆説
製紙会社の宮本が辞書用紙のサンプルを持ってきた帰り道、忘れ物に気づいたみどりは彼を追いかけます。
そして思わず口にしたのは、「紙にそこまで熱意を注げるのが羨ましい」という本音でした。
しかし宮本の返答は意外なものでした。
「僕、そこまで紙が好きってわけじゃないんです。好きでも嫌いでもないんです」
彼は馬締の辞書への情熱に敬意を抱き、「自分もそれに並ぶ情熱を持ってみたい」と思った──つまり、“好き”を真似ることから始めているのだと語るのです。
時間を使うことで「好き」が生まれる
そんな宮本が語り出したのが、サン=テグジュペリ『星の王子さま』の一節でした。
「君がそのバラを好きなのは、それのために時間を使ったからだよ」
好きだから時間をかけたのではなく、時間をかけたから好きになる──この逆説的な価値観は、みどりにとって大きな発見となります。
「普通は逆だよね」と同意しながらも、宮本は「でも、試してみない?」と提案します。
「大渡海の刊行予定は3年後。その間に、自分が本当に辞書を好きになれるか試してみよう」──そう語る宮本の言葉に、みどりも「自信ないな」と笑いながらも、少しだけ希望を見いだします。
“好き”は始まりではなく、積み重ねの先にある
この会話は、みどりにとって大きな転機でした。
「好きだからやる」のではなく、「やり続けることで、好きになるかもしれない」。
それは、辞書作りという仕事に対してだけでなく、人生そのものへの向き合い方としても大きな視点の転換だったのです。
“好き”という感情は、最初から情熱としてあるわけではない。時間を費やすことでしか育たない「信頼」や「親しみ」に似たものなのかもしれない。
こうしてみどりは、「好き」という言葉に対して、自分なりの距離感と可能性を見出し始めるのでした。
「あきらめる」の本当の意味に気づく瞬間
第2話の終盤、みどりが直面するもう一つのキーワードが「あきらめる」です。
失恋という出来事をただの感情の終わりとして処理するのではなく、辞書の語釈を通してその本質的な意味を問い直すことで、みどりは自分自身と深く向き合っていきます。
それは、彼女が辞書編纂者として歩み始める上での、大きな“言葉の目覚め”の瞬間でもありました。
「あきらめて、あきらめて、あきらめて」──馬締の言葉の真意
昇平との別れに未練を断ち切れず、何度も連絡を取ってしまうみどりに、馬締が静かにかけた言葉。
「あきらめて、あきらめて、あきらめてほしい」
この言葉は、みどりにとって最初は「忘れろ」「断ち切れ」といった意味にしか聞こえませんでした。
しかし、編集の仕事に没頭する中で、その言葉がふと心にひっかかり、みどりは改めて「辞書を引く」ことを選びます。
辞書を引いて見えてきた「あきらめる」の多層的な意味
みどりが辞書を開くと、そこには「あきらめる」という言葉に対して、以下のような複数の語釈が記されていました。
- 明らめる:物事の事情・理由をあきらかにする
- 諦める:望んでいたことの実現が不可能であることを認めて、望みを捨てる。断念する。思い切る
- 明らめる:心をあかるくする。心を晴らす
みどりが初めて理解したのは、「あきらめる」とは単なる放棄や断念ではなく、「明らかにする」「心を晴らす」という前向きな意味合いも持つということでした。
つまり、自分の気持ちや状況を冷静に見つめ、整理し、認めることで新たな一歩を踏み出す──それが本来の“あきらめる”の姿なのです。
明らかにすることで、本当の別れを受け入れる
この語釈に触れたことで、みどりは再び中村に連絡を取り、率直な言葉で語り合います。
「好きだったけど、最後はお互いが相手を利用していた。それだけが残っていた」
中村もその言葉に頷き、ふたりはようやく“感情の終わり”ではなく、“関係の整理”としての別れを受け入れます。
それは痛みを伴いながらも、どこか清々しい結末でした。
「辞書を引くこと」は、自分自身を明らかにすること
辞書はただ言葉の意味を教えるだけの道具ではありません。
ときに、心の中にあるモヤや混乱を、言葉を通して「明らめる」手助けをしてくれる存在でもあるのです。
みどりはこの経験を通じて、辞書に対する見方を大きく変えました。
そして、辞書とは人の心に寄り添い、「言葉を通じて人を支える舟」であると実感し始めたのです。
恋愛の語釈を問い直す──異性前提の限界
第2話のクライマックスでは、辞書における「恋愛」の語釈が大きなテーマとして取り上げられます。
みどりがふと目にした「恋愛」という項目。その中に書かれていた「異性同士の愛情」という語釈が、彼女の心を大きく揺さぶります。
「異性だけが恋愛の対象?」「じゃあ同性間の恋は、“恋愛”じゃないの?」──そんな素朴な疑問が、みどりの中に怒りに近い違和感をもたらしたのです。
「恋愛」の語釈に込められた排除の構造
みどりは他の辞書を調べても、どれも一様に「男女」「異性」という言葉が語釈に含まれていることに驚きます。
「どの辞書にも、私が感じる“恋愛”が書かれていない」。
そう思ったとき、彼女は「辞書に自分がいない」と感じたのです。
これは「語釈からの排除」だけでなく、「社会からの排除」とも感じられるような感情でした。
会議で問われる──「辞書は中立か、典型を記すものか」
みどりの問題提起は編集部会議で取り上げられます。
荒木や松本は、辞書の語釈が「誰もがイメージしやすい典型的な例」を優先していることを説明します。
「辞書は典型を書く。しかし、その“典型”が時に少数派を傷つけてしまう」──それが、今回の問題の本質です。
同性愛を語釈に加えるべきか? 同性愛という項目を独立させるべきか?
しかしそのどちらも、「恋愛」という言葉が本来持つ包括性を狭めてしまう可能性があります。
言葉の本質は「誰もが安心して引ける」こと
みどりは語ります。
「辞書はあなたを褒めもしないし、責めもしない」と松本先生は言いました。
でも、もし同性を愛している人が「恋愛」を引いて、自分のことが書かれていなかったら、傷つくと思います。
私は、そんなふうに人を寂しくさせる辞書を作りたくありません。
この発言は、辞書という書物がいかに「中立であるべき存在」でありながら、無意識に誰かを排除してしまう危うさを浮かび上がらせます。
言葉の定義が社会の構造とリンクしているからこそ、語釈には“配慮”ではなく、“理解”が求められるのです。
みどりが考えた「恋愛」の語釈
会議を経て、松本先生から「岸辺さん、あなたが『恋愛』の語釈を考えてみてください」と提案を受けたみどり。
彼女が向き合い、導き出した語釈はこうでした。
恋愛:特定の二人の互いへの思いが恋になったり、愛になったり、時に入り交ったりと非常に不安定な状態
この語釈は、「恋愛」を異性間・同性間に限定せず、“感情の関係性”そのものに焦点を当てて定義した点で非常に革新的です。
また、「不安定な状態」と記すことで、恋愛の普遍的な本質=移ろいゆく心の動きや複雑さにも丁寧に言及しています。
この表現には、みどり自身の失恋の体験と、言葉に誠実に向き合う辞書編集者としてのまなざしが、静かに、しかし力強く宿っています。
灯台守として──変わりゆく社会と、言葉の橋渡し
会議の最後、松本はこう告げます。
言葉の意味は、時代とともに変わっていきます。
辞書は時代を先取りするものではなく、時代を映すものです。
だからこそ、刊行までの3年間、言葉の変化を観察し続けてください。
あなたには、“言葉の灯台守”になってもらいたいのです。
「恋愛」という語を、誰にとっても居場所のある言葉にする──。
それは、岸辺みどりに託された言葉と社会を結ぶ、静かで強い使命だったのです。
NHKドラマ10「舟を編む」第2話を通して考える言葉の力
第2話「好き・あきらめるということ」は、一見するとみどりの失恋と新しい仕事の始まりを描く回のようでありながら、「言葉とは何か」「語釈とは誰のためのものか」という、本質的な問いを静かに突きつけてきました。
それは辞書を扱う物語だからこそできる、極めて誠実で、そして挑戦的な問いかけだったといえます。
語釈を通して見つめ直す、感情の輪郭
「好き」「あきらめる」「恋愛」──この3つの語は、誰もが使い、体験するものです。
しかしそれを「辞書的に定義する」となった途端に、その曖昧さ、不確かさ、多義性が浮かび上がってきます。
それをみどりは、個人的な感情と辞書編纂者という立場の両方から見つめ、「語釈を作るとは、自分の中の問いと徹底的に向き合うこと」だと実感していきます。
辞書は“舟”──誰かの言葉を運ぶもの
辞書は単なる言葉の集積ではなく、“誰かのことば”を他者に届けるための「舟」なのだと、この物語は教えてくれます。
たとえそれが典型ではなくても、マイノリティであっても、「その言葉が辞書にある」という事実は、“ここに自分がいていい”という安心感を与えてくれます。
それこそが、「大渡海」が目指すべき辞書の在り方なのです。
言葉をめぐる旅の始まり
第2話で描かれたのは、みどりの「再出発」だけではありません。
それは同時に、“言葉の意味”を考える長い航海の始まりでもありました。
恋愛を定義しようとするみどりの言葉、誰かを救おうとする語釈。
それは人の痛みや喜び、そして時代の変化に静かに耳を澄ます姿勢から生まれたものです。
この回を通して、視聴者は改めて考えさせられます。
「あなたの言葉は、誰かを包んでいますか? それとも、知らずに切り捨てていますか?」
辞書とは、正解を与える本ではなく、問いを持ち続けるための舟なのかもしれません。
「舟を編む」という静かな物語の中に、言葉の力と責任がしっかりと刻まれた回でした。
- 第2話は辞書の語釈を通じた心の再生が描かれる
- 「好き」は時間をかけて育つ感情として表現
- 「あきらめる」は明らかにするという意味も含む
- 「恋愛」の語釈は異性前提の限界に疑問を投げかける
- みどりが導き出した語釈に多様性への視点が込められる
- 辞書編纂は言葉を照らす“灯台守”の仕事である
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